米国における拠点・工場閉鎖等に伴う大量解雇における留意点

企業が従業員数の削減や拠点・工場の閉鎖、または拠点・工場内の公認部門・部門の閉鎖、あるいはリストラ、組織の移転、効率化、市場需要の変化に伴う大量解雇を行う必要がある場合、従業員に対する責任を回避または制限するために、以下の点を考慮する必要があります。
連邦法および一部の州法では、拠点・工場の閉鎖や大量解雇が発生した場合、雇用主は影響を受ける従業員に対し最低限の通知を行うか、通知の代わりに給与を支払うこと、さらに特定の政府機関に通知を行うことを義務付けています。

 従業員調整・再訓練通知法(WARN法),従業員調整・再訓練通知法(「WARN法」)は、連邦法として、企業が閉鎖や大量解雇を行う際に事前通知を行うことを義務付けています。これにより、従業員は職を失うことに備えることができ、州政府は解雇された従業員に対して迅速な支援(失業保険給付)を提供できるようになります。WARN法は下記の要件を満たす雇用主に対して適用されます。

雇用主が:

o   100人以上のフルタイム従業員を抱える先、または

o   フルタイム従業員と勤務時間が週に4,000時間以上であるパートタイム従業員の合計が100人以上である先で

以下の計画がある先

o   500人以上の従業員を解雇する場合、または50人以上の従業員を解雇する場合で、かつそれらの解雇従業員が単一の雇用拠点または公認部門・部門の従業員の3分の1以上を占める場合(影響を受ける従業員)。

工場の閉鎖や大量解雇がWARN法の適用範囲に該当する規模である場合、雇用主は下記の義務を負います。

解雇の少なくとも60日前までに影響を受ける従業員に対して書面での通知をすること:

さらに下記に対して通知を行うこと

o   州および地方行政機関および

o   もしあれば労働組合  

通知を怠った場合または期限までに通知を怠った場合には下記の義務が発生します。

·         60日に至るまで通知が遅れた日数分の給与・福利厚生費を支払うこと

·         毎日$500の民事罰金を支払うこと  

通知には下記の記載が必要です:

·         第一に通知には下記記載が含まれなければなりません

o   閉鎖されるのは工場や拠点の一部か、全部か

o   閉鎖は一時的なものか永続的なものか

·         第二に通知には以下の予定日が含まれなければなりません。

o   工場閉鎖または大量解雇の開始

o   またはその個人の解雇予定日

·         第三に、通知には、上級従業員が解雇を回避するために、給与や賃金が低い職位に移動できるかどうか(「バンピング権」)についての記載が必要です。

·         第四に通知にはさらなる情報を得るためのコンタクト先の電話番号の記載が必要です。  

·         通知には、従業員にとって有益な追加情報、例えば利用可能な失業者支援の情報や、計画された措置が一時的なものである場合には、その推定期間(判明している場合)を含むことができますが、これは必須ではありません。

工場の閉鎖や大量解雇は通常1日で完了するものではなく、雇用主は業務上の要件を満たすために影響を受ける従業員の雇用を段階的に終了させることがあります。
そのため、WARN法では、影響を受ける従業員に対する通知または通知の代替給与の適用を判断する際、従業員の総数と影響を受ける従業員の割合を「移動計算期間」に基づいて算定することを求めています。
影響を受ける従業員が60日未満の通知期間で解雇され、通知の代替給与が支給される場合、雇用主は通知の代替給与期間中も、医療保険を含む従業員の福利厚生を従業員が勤務している場合と同様に継続しなければなりません。

 拠点・工場閉鎖に関する州法

2025年5月時点で、15の州が連邦WARN法を反映した法律を制定しており、これらは「ミニWARN法」と呼ばれています。しかし、これらのミニWARN法の中には、連邦WARN法よりも厳格で包括的な規定を設けているものや、影響を受ける従業員の数や雇用主の規模に関係なく、解雇またはレイオフされた従業員に対する異なる退職手当要件を定めているものもあります。例えば:

·         カリフォルニア州法はWARN法とほぼ同じ内容ですが、適用対象となる企業の条件として、(i) 発生事象の12か月前に75人の従業員を雇用していること、(ii) 少なくとも50人の従業員を解雇すること、という要件が含まれます。
また、企業が完全かつ適時に通知を行わなかった場合、企業自体だけでなく、企業の直接的・間接的な所有者も未払賃金や罰則の責任を負うことになります。

 ·         ニューヨーク州法は、(i) 50人以上のフルタイム従業員を雇用する企業、またはフルタイム・パートタイム従業員を合わせて週2,000時間(残業時間を含む)以上を雇用する企業に適用され、(ii) 25人の従業員のみを解雇する場合にも適用されます。さらに、ニューヨーク州では、WARN法が義務付ける通知期間よりも30日長い90日前の事前通知が必要とされています。

 ·         イリノイ州法は75人以上のフルタイム従業員を雇用する企業に適用されます。

 ·         ニュージャージー州法は、(i) 100人以上の従業員を抱える企業、(ii) 少なくとも50人の従業員を解雇する企業に適用されます。さらに、企業は、(i) 影響を受ける従業員に90日前の書面による通知を行うこと、(ii) 1週間分の退職手当を支払うこと、(iii) 必要な通知を適時に行わなかった場合、追加で4週間分の退職手当を支払う義務を負うことを定めています。

 ·         ハワイ州法は、(i) 発生事象の12か月前に50人の従業員を雇用している企業に適用され、(ii) 退職手当として平均週給の最大4週間分(失業保険給付額を控除した額)を支払うことが義務付けられています。

拠点・工場閉鎖や大量解雇を検討している企業に対する実務的アドバイス

雇用主が解雇する従業員を選定する際は、各従業員のスキルや経験を慎重に分析し、体系的なプロセスに基づいてこれを行う必要があります。意思決定のプロセスは、従業員の評価や管理職による過去の書面での観察記録、または職務における勤続年数などの客観的な要素に基づくべきです。解雇またはレイオフの対象となる従業員の選定およびその実施時期は、人種、性別、ジェンダー、年齢、障害などの要因に基づいて行われてはならず、連邦法、州法、または地方の非差別法に基づく潜在的な法的責任を回避する必要があります。

雇用主が法的請求の放棄および免除と引き換えに影響を受ける従業員に退職手当を提供することを決定した場合、通知の代替給与は、雇用主が法的に支払う義務を負っているため、退職手当のパッケージの一部として扱うことはできません。
したがって、影響を受ける従業員に提供される退職契約には、退職手当などの追加の補償が含まれている必要があり、それによって放棄および免除の法的効力が確保されます。

 影響を受ける従業員の判定基準、通知を行うタイミング、通知の内容、解雇された従業員に支払われるべき報酬や福利厚生の詳細は、非常に複雑です。拠点の閉鎖や大規模な従業員の解雇を検討している雇用主は、法的な課題を回避するために、できるだけ早い段階で弁護士と相談することが重要です。

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